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名古屋地方裁判所 平成10年(ワ)791号 判決

原告

加藤昭

被告

土屋英一

主文

一  被告は、原告に対し金七六七万六八四三円及びこれに対する平成八年一〇月一四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し金二五四九万八四三八円及びこれに対する平成八年一〇月一四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が歩行中、被告運転の普通乗用自動車に衝突され傷害を受けたとして、被告に対し自動車損害賠償保障法三条に基づき損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等

1  左記交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成八年一〇月一四日午前七時五二分ころ

(二) 場所 岐阜県瑞浪市西小田町六丁目四八番地先路上

(三) 加害車両 普通乗用自動車(岐阜五四せ二三一七)

運転者 被告

保有者 被告

(四) 被害者 原告

(五) 事故の態様

信号機のない交差点において、道路を横断中の原告に加害車両が衝突した。

2  被告は加害車両を運行の用に供していた。

3  原告は、本件事故により脳挫傷、外傷性くも膜下出血及び右脛骨顆部粉砕骨折の傷害を負い、右傷害の治療のため土岐市立総合病院に次のとおり入通院をして治療を受けた(甲二の1、2、三の1)。

(一) 入院 平成八年一〇月一四日から平成九年二月一八日まで(一二八日間)

(二) 通院 平成九年二月二六日から同年四月一六日まで(実通院日数四日間)

4  原告は平成九年四月一六日症状固定となり、右片麻痺、右感覚鈍麻、右膝関節部痛、歩行障害等の後遺障害が残った(甲三の1)。

右後遺障害につき、自動車保険料率算定会のいわゆる事前認定の手続において自動車損害賠償保障法施行令別表二級三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの)に該当するとされた(甲一四、乙九、調査嘱託(自動車保険料率算定会))。

5  原告は、本件につき自動車損害賠償責任保険から合計二一九五万円の支払を受けた。

二  争点

1  本件事故の態様、過失相殺の有無、割合

2  原告の傷害、後遺障害の内容、程度

3  原告の損害額

第三争点に対する判断

一  争点1について

前記争いのない事実等及び証拠(甲一の1、一四、乙一、三ないし五、八、証人加藤順子、被告本人)によると、以下の事実が認められる。

1  本件事故現場付近の概要は別紙略図のとおりであり、本件事故現場は一色町から和合町方向への東西方向の道路(以下「東西道路」という。)と小田町から薬師町方向への南北方向の道路(以下「南北道路」という。)との交差する交差点(以下「本件交差点」という。)であった。

東西道路は、両端に歩道が設置され車道幅員が約五・八メートルの片側一車線の道路で本件交差点内にも道路中央線が引かれている。なお格別の速度規制はない。また、別紙略図のとおり、本件事故当時東行車線の本件交差点西側には観光バスが駐車していた。

南北道路の本件交差点南側部分は車道幅員が約六・〇メートルの片側一車線の道路であるが、南北道路の本件交差点内には道路中央線が引かれていない。なお、別紙略図のとおり、本件交差点の入口付近は扇状に幅が広くなっている。

また、本件事故当時の天候は雨であった。

2  被告は、東西道路を一色町から和合町方向に、毎時六〇キロメートルを下まわる速度で先行車に続いて加害車両を運転して本件交差点付近まで進行してきたが、雨が降り、左前方(東西道路の本件交差点手前南側)の歩道に傘をさした数名の人がいたことから更に減速した。

そして被告は、先行車が本件交差点を一時停止することなく通過したこと、前記の傘をさした人に気をとられたこと、左前方の見通しが東西道路沿いに植えてあった樹木等の関係でよくなかったこと等から、先行車が本件交差点を通過した直後に本件交差点の横断を開始した原告に衝突直前まで気がつかず、このため加害車両前部が本件交差点を南から北に小走りに横断中の原告に衝突した。

3  原告は、南北道路西側で本件交差点の南側約三〇メートルの位置に自宅を有し、同所に居住していた。

そして原告は、本件事故当日、前記駐車中の観光バスを使った老人会の旅行に参加すべく自宅を出、傘をさしながら南北道路南側部分の西端を多少小走りに歩行し、前記観光バスに乗るため本件交差点を横断中に加害車両に衝突した。なお原告は本件交差点の横断に当たっては右側の安全に格別注意することはなかった。

4  原告は、昭和二年四月一六日生まれで本件事故当時六九歳であり、被告は、耳、口が不自由で身体障害者一級の認定を受けた障害者で、昭和五二年三月、運転免許を取得した。

以上のとおり認められる。

ところで本件事故の態様につき、原告は、本件交差点を小走りに横断していたことを否定する。しかし、これに沿う証拠(被告本人)がある上、証拠(証人加藤順子)によると、原告は家を出てから本件交差点に至る途中、雨天にもかかわらず歩きながら傘を広げたことが認められ、これによると、前記のとおり駐車中の観光バスに乗車すべく急いでいた状況が認められ、右事実も原告が本件交差点において小走りであったことを推認させる事実といえ、前記の事実を認定することができる。

なお道路幅員、事故後の原告の停止位置等につき証拠(甲一の2)の記載は証拠(乙一)の記載に照らし採用できない。

そして右認定の東西道路、南北道路の各幅員、道路中央線の有無、原告が加害車両の直後の位置で本件交差点を横断したこと、原告が老人であること等の事実を考慮すると、本件事故の発生については、主として自動車運転者である被告の前方不注視の過失が大きかったとはいえるものの、原告の側にも道路横断者として二割の割合の過失があったものと認め、原告の後記損害についても右割合の過失相殺がされるのが相当である。

二  争点2、3について

1  治療費(請求額同じ) 一〇六万一四九〇円

証拠(甲四)によると、原告の土岐市立総合病院における治療費として頭書金額を要したことが認められる。

2  入院付添費(請求額七〇万四〇〇〇円) 〇円

証拠(甲四、五、一四、証人加藤順子)及び弁論の全趣旨によると原告の前記病院への入院中、原告の妻である加藤順子が付き添ったこと、しかし、右病院はいわゆる完全看護の病院であって、これを前提に治療費を算定し、被告側に請求していることが認められる。そうすると、右のとおり原告の妻が入院中付き添ったことは認められるものの、その費用相当額を本件事故による損害として被告に負担させるのは相当とはいえない。

3  入院雑費(請求額一六万六四〇〇円) 一五万三六〇〇円

前記のとおり原告の入院日数は一二八日間であるところ、弁論の全趣旨によると、入院雑費として一日当たり一二〇〇円を要したことが認められる。したがってその総額は頭書金額となる。

1,200×128=153,600

4  通院交通費(請求額九三三〇円) 八〇〇〇円

前記のとおり原告の土岐市立総合病院への実通院日数は四日間であったところ、弁論の全趣旨によるとこのための交通費(後記のとおり付添人である妻の分も含む。)は片道一〇〇〇円を要したことが認められ、これによるとその総額は頭書金額となる。

なお原告は平成九年四月一日の交通費分(タクシー利用)も請求する。しかし、証拠(甲三の1、四)によると、原告は平成九年二月二六日から同年三月二六日までの間に三日間通院し、同年四月一六日症状固定と診断されたことが認められるのであるから、前記のとおり実通院日数が四日間であったとすると、同月一日は通院しなかったものと認められる。

5  介護費(請求額同じ) 三一万三五〇〇円

証拠(証人加藤順子)及び弁論の全趣旨によると、原告は退院後平成九年二月一九日から同年四月一六日まで(五七日間)、通院時も含め常時付添介護を要したこと、その一日当たりの単価は五五〇〇円が相当であったことが認められる。したがってその総額は頭書金額となる。

5,500×57=313,500

6  入通院慰謝料(請求額一八六万円) 一八〇万円

本件事故による前記傷害の内容、治療期間、これらによって認められる原告の精神的苦痛を考慮すると、本件事故による入通院慰謝料は頭書金額をもって相当とする。

7  後遺障害慰謝料(請求額同じ) 二二〇〇万円

前記のとおり原告は、その後遺障害につき、いわゆる事前認定の手続において自動車損害賠償保障法施行令別表二級三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの)に該当するとされたものであるが、証拠(甲三の1、2、八ないし一四、乙九、証人加藤順子、調査嘱託(自動車保険料率算定会))によっても原告の後遺障害の程度は右等級相当のものと認められる。そして右後遺障害の程度等に照らすと、本件事故による後遺障害慰謝料は頭書金額をもって相当とする。

8  将来の介護費(請求額一九七一万五八五八円) 一〇七五万四一〇四円

原告は、本件事故に基づく将来の介護として終生常時家族の介護を要する旨主張する。しかし、前記のとおり原告の後遺障害の程度は自動車損害賠償保障法施行令別表二級三号相当のものと認められ、本件全証拠によっても同表一級三号(神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの)相当のものとまでは認めるに足りない。

そうすると、原告については症状固定時である平成九年四月一六日(七〇歳)から平均余命である一三年間、随時家族による介護を要するものと認められ、その介護費用は一日当たり三〇〇〇円を要するものと認められる。そして新ホフマン方式により現価を求めると、その介護費総額は頭書金額となる。

3,000×365×9.8211=10,754,104

9  自宅改造費等(請求額同じ) 六万七八六〇円

証拠(甲七の1ないし3、証人加藤順子)によると、本件事故を契機に原告は自宅を改造等(手すり設置、ベッド搬入)したこと、その費用は頭書金額を要したことが認められる。右改造等の内容に照らすと右支出は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

10  合計(請求額四五八九万八四三八円) 三六一五万八五五四円

以上の合計は頭書金額となる。

11  過失相殺

前記のとおり本件事故については原告に二割の過失があると認めるのが相当であるから、原告の前記損害についても右割合の過失相殺がされるべきである。

36,158,554×(1-0.2)=28,926,843

12  弁護士費用(請求額一五五万円) 七〇万円

本件事案の内容、本件訴訟の難易度、認容額等を考慮すると、本件事故に伴う弁護士費用は頭書金額をもって相当とする。

13  既払金(被告主張額同じ) 二一九五万円

原告が本件につき自動車損害賠償責任保険から頭書金額の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

第四結論

よって、原告の本訴請求は被告に対し損害金七六七万六八四三円及びこれに対する本件事故の日である平成八年一〇月一四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判官 北澤章功)

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